
「ようこそ!小説の、小説による、
小説のためのブログにようこそ!」
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『散文詩の部屋』 new!
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お知らせ、2009年4月8
日、別館を新築いたしました。是非とも、ご来館ください!
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『散文詩の部屋』
私にとって、散文詩は小説の原点であり基礎でもあります。このさい、基礎に戻ってみようと思いました。
『枯らしてはいけない花』
1 枯らしてはいけない花。
永遠に散ることがない、世話を怠らない限りは。
よもやあり得ないとおもうが、そんなことがあった日には、何が起こるのか保証はできない。
枯らしてはいけない花。
永遠に散ることがない、世話を怠らない限りは。
よもやあり得ないとおもうが、そんなことがあった日には、何が起こるのか保証はできない。
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『星空を眺めて』
1星空を眺めていると、一筋の流れ星が見えた。
きっと時の中に消えていくのだろう。
お堅い連中は、言葉にするのも憚るだろう。
もう、口にするのも疲れる。
誰か、代弁してくれないか。
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『星空を眺めて』
1 知らない人の写真は
遠い世界のことのようで
人の心を読むのに長けている
月の音楽が奏でられる
いま、あなたはいずこ?
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『指輪に不釣り合いな魂を込めて』
1 指輪に不釣り合いな魂を込めて、充実した日々は昔日の向こうに飛び去った。
老人は、両手を掲げて水平線に臨んだ。
まるで太陽を掲げるがごとく。
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『もう手紙は書けない』
1 もう手紙は書けない。
彼は言った。落ち着かない目で、そわそわしながらやっとのことで口を動かした。
不自然な時間が過ぎていく。
自分がここにいるからだ。
彼女はそう思った。
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『もう手紙は書けない』
1 不人気でも赴かねばならない。
例え、この手が、足がもがれようとも。
この一瞬を失うことが命取りに、即つながる。
今、この刻を待っていた。
お前と手を繋ごう。
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『怪談』
海の見える丘の上に建っていた。友人は沢山いた。丘を覆う森には、美しい木々がいつも笑っていて、妻とともに歌を歌ったりして楽しい時間を過ごしたものだ。
妻は尋常小学校と呼ばれていた。
子供たちが好きでたまらなかった。学校から飛び出した幾人かは、決まって胎内に入って来る。
もちろん、「こんにちは」の一言もないが、それでよかった。
からんからんという下駄の音、女の子たちのクスクス笑い。そして、それらを叱る教師や司書たち。しかし、後者はたいてい、優しい人で両者の間にこんな会話が為されることがあった。
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『不遜な民』
1 不遜な民、言うべきことは「離乳食」。
お前は、きっと、壁に溶け込もうとしているにちがいない、陽光という接着剤を使って。
ひび割れに入り込んだ粘着質の液体は、壁そのものを溶解しようとしている。
かつて天使だった、今は、悪魔。
「まさにオレのことだ」
きっと、お前はそう苦笑するにちがいない、誰のせいでそうなってしまったのか、執念深く、憶えて いて。
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『アカプルコ』
「アカプルコって国、知ってる?」
「何処の国だ?」
逆に聞きかえしたのは、ある意味、当然のことだったが、それを期待していないのも事実だった。誰も知らなさそうな国名をいかに聞かされても、面食らうだけだろうと前もって計算していたにちがいない。
「・・・・・・・・」
「それは、不思議の国か? 妖精でも棲んでいるって言う?」
少年の言いように、少女は気を悪くした。
「違うわよ、本当にある国!」
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 序章』
『新世紀エヴァンゲリオン二次製作(仮題)
プロローグ
2001年6月6日。
「もう名前考えてあるそうだな」
「ええ、男の子だったらシンジ、女の子だったらレイです」
ここは、学生の声かしましい大学の学食。未来的でエレガントな建物の影が、室内にまで伸びている。いかにも最先端の学問に携わっているという雰囲気が、こんなところにまで行き届いている。
そんな雰囲気に相応しくない匂いが、部屋中に充満している。焼き肉や牛丼と言った未来的でもエレガントでもない香が、豚に真珠という諺を思い出させる。
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 1章』
2015年6月6日、第3東京市郊外にある高級マンション最上階。
乱暴にカーテンが空けられたことで、朝日が招じ入れられたはずだが、少年は未だに夢の中を彷徨っていた。
――――あと、2分!2分で倒さないと!!うあ・・ああああ・あ・!!?
「ちょっと! バカシンジ!!」
少年を見慣れた部屋に引き戻したのは、幼馴染みの声だった。甲高い声が、耳を劈いたかと思うと、次の瞬間、世界があった。
「シンジ! 早く起きなさいよ!遅刻するわよ」
「・・・・・・・・・もう少し、寝させて・・・・」
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 2章』
アスカとシンジが教室に足を踏み入れたとき、時計の針は8時45分を超えるところだった。
「まったく、ギリギリじゃない? 誰かのせいで皆勤がパーになるところだったわ」
「はいはい」
脳の中にもうひとつ、聴覚神経を設けてそちらに小姑の声を入力する。そして、本来の神経を友人たちに向ける。
「おはよーさん、センセ、また夫婦ゲンカかい?」
「そんなんじゃないって言ってるだろう?」
声変わり寸前の甲高い声が、教室中に響き渡る。しかしながら、ウィーン少年合唱団から声がかかったという話は聞かない。
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 3章』
少女の声が裏返るのに数秒とかからなかった。まるで借りてきた猫のようなおとなしい自己紹介が一瞬で、空をカッターで裂くような声に変わった。シンジを指さして言い放つ。
「アアぁ?、朝のパンツ覗き魔!!」
彼女に指摘されるまでもなく、朝の衝突事件の一方の当事者だった。
聖者の葬式のような静謐な空気が一瞬で崩壊し、ここに居合わせる30人あまりの生徒たちは、どれも下を引っこ抜かれたカエルのような顔で事態を見守ることにした。
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 4章』
「ネルフ?」
綾波はるかは、怪訝な顔を見せた。
「我々の俗称さ、別に隠すことはないが、この大学の医学部を牛耳る二大勢力の一つでね ――」
外見から見て、かなり、さっぱりとした印象だが、その手の感触もさらさら流れる小川のようだった。
「碇助教授 ―――」
割って入ってきたのは、コウゾウとは好対照な印象をばらまいている碇ゲンドウだった。白衣から有り余るほどの熱気と野心が閉め出している。まるで湯気が出ているのかと錯覚を受けるほどだ。
握手の感触を思いだしてみる。冷たさと同時に何か棘のようなものを感じた。
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『 エヴァンゲリオンの二次製作 5章』
その時、アスカの目に宿った光が変わったのを察知したのは、シンジだけだった。だから、彼女がこれから起こすことを予見して、どうにか妨げようとした。
しかし ――――。
少年の手がアスカの肩に触れるか触れないか、どちらとも言えない瞬間、ちょうどその時、少女の腕が動いたと思ったその瞬間、パチンという渇いた音が二回ほど、教室に響き渡った。
一瞬、何事かあったのかと、教室に残った生徒たちは肺の酸素をすべて抜かれてしまった。
しかし、もっとも面食らったのは当の男子生徒たちだったであろう。少年たちは、真っ赤に腫れ上がった頬に手をあてがいながら
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『魔弾の射手』
『魔弾の射手 序章』
―――故郷だ!もう少しで還れる。一体何年ぶりだろう。青い塊。それは我が海!
その存在は、真空を飛んでいた。
その時、人類は、この空間はおろか、大気圏すら征服できずにいた。
しかし、その存在は、そんなことは無関係のように、すいすいと飛んでいく。
実は彼は悪魔なのだ。悪魔に性別などないのだがら、彼という主語は適当でないかもしれない。しかし、便宜上、彼ということにしておく。
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『魔弾の射手 1』
ザミエルは、まったくでたらめに、その青い塊に突入した。地上の何処に着陸するかは、すべて運次第である。生まれ故郷に、着弾するのか、別の大地で、別の我が子に出会うのか。
――――すべてはサイコロの目しだい!
「うん、ここは生まれ故郷に近いか」
ザミエルは、感覚でそれを理解した。
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『魔弾の射手 2』
「ら、来月に侯爵閣下の御前で、射撃大会が行われるの ――――」
「オットガール侯爵か」
アガーテは驚いた顔をした。
「ああ、ジギスムント3世の治世だな。今から8代前の先祖にあたる。――――今のルードヴィッヒには、あいにくと面識がないが、もちろん、今すぐにでもそんな関係は今すぐにでも構築できる」
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『魔弾の射手 3』
「カスパール、あなたはそれでいいの?」
「ぼ、僕は、あなたに強要はできない。あなたを助けたのは、僕の意思 ―――――――」
アガーテは、カスパールの言葉をみなまで言わせなかった。
背の高い彼の口を塞ぐには、少女は背が低すぎた。足首が痛い。
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『魔弾の射手4』
明くる朝、教会に行く途中、見慣れない情景に出会った。銃を下げたカスパールに出会ったのである。彼はいつもと違って、意気揚々としていた。右手には、見慣れないものを下げていた。
「あれ?こんなに朝早くから森に行ってたの?」
「うん、そうだよ、試したくてね」
「え?何を!?」
「い、いやあ、新しい銃の様子をね ―――――」
カスパールは必死に、狼狽を隠そうとした。元来、器用な人間ではない。自分をごまかすことは得意じゃない。
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『魔弾の射手5』
―――血族の禁句を破りしとき、国やぶれる。
薄暗い空間に、美声が、朗々と響く。その声は、液体のように壁や彫刻の凹凸の隅々まで、流れ込んでいく。
「吟遊詩人、見事なものだ? ハイラインだったな」
「御意!」
「なかなか、良い声をしている」
「もったいなき仰せにございます」
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『魔弾の射手6』
「どうしたの? マックス? 何処かヘンよ」
アガーテが、急に狼狽した親友に駆け寄った。カスパールも続く。彼の長髪が、鼻に掛かる。女とみまごうばかりの美貌が、目の前にある。急に、この白い顔が憎くてたまらなくなった。誰よりも信頼してきた親友のはずなのに、この感情は一体、何なのだろう。
「何でもない!」
マックスは、小川に向き直ると、振り絞るように言った。夏でもないのに、汗が滲んでくる。
「ここは、戦場になるかもしれないな―――――――」
「え?」
「どういうことだ?マックス?」
「いや、そう思っただけだ」
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『魔弾の射手7』
そのころ、アドルフ、アルフレート両大臣は、城の回廊を主塔に向かって歩いていた。侯爵に呼ばれているのだ。
「アドルフ殿はピエール3世をご存じと、お伺いしましたが ―――――」
「ああ、あれほど狡猾な男は見たことがない、フランス人は、ずるがしこさにかけては、子犬まで、心が汚れておる。しかし、そんな、フランス人の中でも、やつは、ずば抜けておったな。若いころから知っているが、顔を皺を得て、どれほど変化しておるか」
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アガーテとマックスは、林檎の木の下で、日陰を楽しんでいた。零れてくる陽光を使って、パッチワークを二人で作っている。俗に、人はそれを愛というのだろう。たぶん、傍からみればそのように見えたにちがいない。
『魔弾の射手8』
この国の支配階級たちが、二人を巡って、権謀術数の限りを尽くしている。いつの間にか、じぶんたちが、台風の目にされているなどと、夢にも思っていないだろう。
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『魔弾の射手 9』
エンフェンがいうところの殿様とは、アドルフ大臣のことである。しかし、マックスが聞き耳を立てたのは、殿様という単語ではなくて、本という言葉だった。アガーテは不思議に思った。マックスはその出身にもかかわらず、例外的に文字が読めるが、それほど本好きというわけではない。
そもそも、本自体がかなりの高価な品であるこの時代、たしかに興味を示すは当然のことだ。だが、富とか名誉とかに、それほど興味を示す人間ではないはずだ。少なくとも、アガーテの知っている限り、そのようなことはなかった。
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『魔弾の射手 10』
一方、カスパールは、マックスが旅立ったことを、アガーテから聞いて、驚いていた。
「それは、本当のことなのか? アガーテ?」
金髪というよりは、薄茶の長い髪を揺らして、そう聞いたものだ。その声は、誰もいない教会堂の中で、怪しくくぐもった。屋根裏の隅で、巣を張っていた蜘蛛が、何かに怯えて逃げ出す。
「本当よ、昨日、いきなり旅立つって」
「しかし、競技大会を目前に控えて ――――」
「どうやら、延期されるらしいよ」
「すると、それを知ってのことか?」
「それはわからないけど ――――」
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『魔弾の射手 11』
「アガーテ、僕は、フランスに行かなくては ―――――」
アガーテは、カスパールの口が何のために動いたのか、とっさには理解できずにいた。しかし、それは彼自身も同様だった。どうして、自分の口が、そのように動いたのかわからない。あたかも、何ものかに憑依され、意識の外によって、動かされているようだ続きはクリック
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『小説、備忘録』
『備忘録 序章』
少女にとって、新幹線に乗るのは、その日がはじめてだった。そして、本国においては、名古屋よりも東に行くのも、はじめだった。
しかし、彼女の家が、子どもを旅行に連れていけないくらい生活に窮しているわけではない。
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『備忘録 1』
内海一枝が新幹線に乗る一週間前に、時間を遡ってみよう。
ここは、栗ヶ丘第三中学校、2年2組。すなわち、一枝が9日後に、足を踏み入れることになる教室である。
「おい!新しい転入生が来るそうだ!何でも女の子らしい!このクラスの女子は、救いがないからな、一人でもマトモなのが欲しいよ」
「オマエのために、女子がいるわけじゃないわよ」
井口榮は、今、入室した男子に注文をつけた。
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『備忘録 2』
内海一枝が、教室に足を踏み入れたのは、4月13日のことである。2年2組のプラカードを見たとき、何か不安を感じたとすれば、それはおそらく、彼女の用心深い性格によるものだろう。あるいは第六感的な、感覚が働いたのかもしれない。
もちろん、一枝のあずかり知らぬことだが、クラスメートは一様に、緊張していた。出走直前の短距離選手のように、全身の筋肉が強張っていた。
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『備忘録 3』
一枝の言葉に同意する詩織。
――――何ていうことを言ってしまったのか。もう、後には戻れない。
まるでドミノ倒しのように、一枚目が倒れると、最後の一枚が倒れるまで終わらないものか。
もはや、一枝も数あるドミノの一枚に過ぎない。この教室に入った時点で、その一部に組み込まれてしまった。そして、今、倒れつつあるドミノ。ならば、自分は、どこにいくのだろう。いや、行かされるのだろう。
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『備忘録 4』
その夜、一枝は、ほとんど、眠れなかった。携帯を摑んだまま、ベッドにダイブしたはいいが。まったく、セイレーンはやってきれくれなかった。しかし、少しくらい、彼女はキスぐらいしてくれたかもしれない。とても嫌な夢を見たような気がするのだ。詳しくは憶えていないが ――――――――。
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『備忘録 5』
――――井口さんは来ていない、よかった。
一枝は、詩織と一緒に教室に入って、思った。クラスメートたちは、普段を変わらずに、ある者たちは、罪のない会話に、ある者たちは、読書に、HR前の、空白の時間を潰している。
そうは言っても、彼等について多くを知っているわけではない。なんと言っても、今日で二日目なのだ。一枝は、周囲の者たちに、軽く挨拶すると、席に着こうとした。その時、教室の空気が絶対零度にまで落ち込んだ。毛穴が、その寒気のせいで、爬虫類のようになった。
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『備忘録 6』
当然のことだが、首輪が嵌るとき、音がするにちがいない。ただし、その音は微少であって、本人はおろか、まじかにいる人間の耳にもそう届くものではないだろう。
しかし、このとき、一枝の耳には、はっきりと金属と金属が合わさる音が聞こえた。
それは、榮に首輪を填めたのではなくて、自分に填めたのではないか。そんな思いに囚われた。
自分がこの教室に、見えない鎖で括り付けられたような錯覚に陥ったのである。
そのせいで、微動だにできない。自分が犯した罪から逃れられない。
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『備忘録 7』
「ああ・・・・・・・・・・」
一枝は、一人、トイレの個室で震えていた。右手を睨み付けている。
―――本当にこの手がやったんだろうか? あのおぞましい行為を!
昼休みに行った自分の行為を、少女は思い出したくなかった。自分があのような行為をやったということを信じたくなかった。悪霊や悪魔とやらが、自分に憑依して、勝手にやったのだと思いたかった。
しかし、もはや彼女がやったことには変わりはない。たとえ、あの時のクラスの空気が、彼女に命じたとしても、それは言い訳にはならないだろう。
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『備忘録 8』
「お帰りなさい、榮、あらお友達なの?はじめてお会いするわね」
とても上品な物言いが、一枝の耳に心地よい。
榮の母親は、外見は彼女にそっくりだが、その内面からは違う匂いが漂ってくる。そえからは、自尊心や気位の高さというものは、感じられない。
もっとも、それは第一印象であって、道々、接していた彼女は、必ずしもその二つにマッチしているとはいえなかった。
しかし、それを芝居であると疑っている一枝からすれば、一概に否定もできないのだった。まるで、狐に包まれたような心持ちで、玄関に入る。
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『備忘録 9』
肩をふいに、抱かれて、一枝は驚きを隠さなかった。しかし、それはけっして、嫌な感覚ではなかった。伝わってくる温かな人肌の感覚は、何やら母親のそれに似ていたからだ。
「さ、榮さん・・・・・・・・・」
そのぬくもりは何処か、湿度を帯びていた。それは、彼女の涙がそうさせるものか。
「ねえ、かずちゃん、私、みんなが、言うような人間だと思う?」
「・・・・・・・・・」
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『備忘録 10』
―――妹と同じ呼び方とは、どう考えてもおかしいではないか。
当然のごとく、一枝は本能的にそう思った。疑義の目を、榮に向ける。しかし、そんなこと、意に介さないといった風に、一枝を自室へと誘う。
「あれは妹なの」
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『備忘録 11』
夕食、入浴と泊りがけというテーマに不可欠なメニューを無難にこなしていく。その間、この家について、そして、榮について、暗に探りを入れたが、有益な情報を得ることはできなかった。なぜならば、当の本人が常にそばにいたからである。緊張しているのが、自分の手を観ればわかる。ステーキを切り分けるフォークが、小刻みに揺れていた。
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『備忘録 12』
一枝と榮は、同じ寝具で休んでいる。二人は、並んでいるのだが、その姿は、さながら絵皿に並べられた海老フライのようだ。
しかし、両者の間には微妙な距離が存在した。ちょうど、榮が一枝を追うように見える。一枝にその気はないのだが、いささか逃げ腰に見えるのは、どういうわけだろう。その一枝は、何か、そこはかとない臭いをかぎ取っていた。
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『備忘録 13』
一枝は、榮の目の前で泣くことはできなかった。彼女の思いに気を取られていたのである。その大きさと深さに圧倒されていたのである。
しかし、何とか彼女にコンタクトを取ろうとはしていた。その思いに解答を与えることはできなくても、一緒に考えることぐらいは、可能ではないか。そう思っていた。
あるいは、榮に楽しい気持ちでいてほしいとの思っていた。せめて、自分といる時間ぐらいは、笑っていてほしい。たとえ、それが仮初めの姿であったとしても、そうあってほしい。そこには、あるていど自己満足も含まれているかもしれない。
榮が悲しむのを見るのは、とてもつらいことだったから。いや、誰が悲しんでいても、それは自動的に、一枝に伝わってしまう。それを自分の優しさであると誤解しなかっただけ、彼女は偽善から自由だったとも言える。
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『備忘録 14』
崩壊は、一枝のなかで静かに起こった。外に知られないようにできるだけ平静を装ったが、はたして、どれだけ功を奏したのかわからない。とにかく、少女の精神は坂を下るように、あるいは急激にコントロールを失って、悪夢へと引きずり込まれたのである。
しかし、それでも安全装置は働いていた。それは、人間なら誰でも持っているという。心の何処かにあるらしい。それが働くと、彼は自然に自分を取り戻す。
一枝も、自分を失うすんでの所で小康を保つことが出来た。その過程を説明すると、次ぎのようになる。まず、自分に問題提起を行った。
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『備忘録 15』
そのとき何が起こったのか、一枝はよく覚えていない。単調な運転が続いた後、急激にそれが終わった。
まず光の点を見つけた。そして、次の瞬間、一点にすぎなかった光が、視界を覆いつくした。おそらく、そのとき意識を失ったのであろう。その間の記憶が完全に抜け落ちている。芝居の暗転のように、急激に光は勢力を失ってしまった。
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『備忘録 16』
その状態を維持することに耐えられなくなったのか、少女は姉の顔を見ることもなしに、病室を後にした。
「・・・・・・・・・」
「かずちゃん、気にすることないよ ―――」
榮が機先を制した。
「うん ――――」
一枝はなんら言葉らしい言葉を発することができなかった。
「でも、すぐにでも退院できるって」
「そう、それはよかったわ」
榮は真性の笑顔を見せた。少なくとも、一枝はそう思った。もしかしたら、そう思いたかったのかもしれないが、とにかく、もう妹のことを気に病んでいるようすはなかった。一枝はこの美しい少女の意識が自分に集中していることが、うれしくてたまらなかった。それだけで足の骨折も元に戻ってしまうかのように思える。
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『備忘録 17』
かおるが一枝の姉であることを一瞬で理解したらしい。
「私のカオ見れば、一発でしょう? 私もそれぐらいは察することができた。それであの病院にいるとなれば、どんな相手かわかるでしょう? だから誘ったのよ」
こともなげに言う姉。なんと大胆不敵な真似ができるのだろう。よほど自分の鑑定眼に自身があるらしい。
「何かわけありなのは一瞬で見抜けたわ」
「たとえば?」
あえて訊いてみた。
「そこまで具体的なことはわからないけど・・・・・」
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『備忘録 18』
「じゃあ、明後日には登校できるのね。先生はこれで帰りますから、お大事にね」
それは小学生の学芸会に酷似していた。軽く薄い台詞が、一枝の心の表面をなぞるだけだ。単なる記号以上の意味はなく、少女の脳裏になんら共振することもない。
いつの間にか、阿久津早苗はいなくなっていた。開閉式のドアは開かれたままで、まるで風が入って出ていったていどの印象しか少女の胸に残さなかったのである。改めて思うと早苗がどんな表情で、どんなことを言ったのかまったく憶えていなかった。しかし、改めて記憶を再構成してみると、別の感慨もあった。
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『備忘録 19』
詩織が来院するに当たって一枝が問題にしたのは、佐藤瑞枝と上田花子こと爬虫類と両生類が付き添ってくるかということだった。
あの2匹が醸し出す小物特有の笑いを思い出すだけで、吐き気が込み上げてくる。それだけはどうしてもご免蒙りたい。
一枝は、麻酔銃で撃たれた熊のように、気だるそうな手つきでスプーンを握ると、スープにそれを浸した。もはや、彼女の目にはその液体には一切色がついていない。従って味も感じない。もともと欠けている塩味がさらにマイナス倍されている状態だ。
スープがそうなら固形物は犬の餌に等しい。
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『備忘録 20』
月曜日はあっけなくやってきた。その間、一枝は予定どおり退院し、登校することになったのだ。しかし、まだ松葉杖から解放されることはない。
そして、永遠にそれは必要になってしまうかもしれない。失われた右足を補完することになるかもしれない。
あの日、安斎詩織が囁いた言葉を一枝は生涯忘れることはないだろう。
もっとも、中学二年という関門。ふつうの少女ならいざ知らず、彼女にとってみればとうてい乗り切ることが出来そうにない壁。
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『備忘録 21』
裁判は、木槌が叩かれるでもなくごく自然に開始された。それを行っている詩織たちにもそのような意識はないだろう。榮をいじめているつもなど皆無なのだから、それは当然だとも言える。
さて、安斎詩織は、一枝を認めると椅子を勧めた。
「さあ、座って」
「かわいそうに、内海さん、もう足、二度と動かないんでしょう?」
ふいに、誰かの声が教室中に木霊した。しかし、一番響いたのは一枝の外耳道と鼓膜だった。
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『備忘録 22』
間美佐恵が送ってくる視線はごくか細い。いささか無関心に思えるが本当は別の意図を隠している。詩織に知られないためだろう。一枝にはそれがわかった。いや、思いこもうとしたのかもしれない。
ここに、美佐恵という味方を作ることで、教室にひとつの橋頭堡を用意する。もしかしたら抜き差しならないこの状態をなんとかできるかもしれない。
本当のことを言えば、榮のことを気遣っているにちがいない。しかし、詩織とクラスメートが恐くて行動に出られないのだ。
確かにひとりだけ表情がちがう。そばかすがチャーミングポイントのこの少女は、榮に比べれば積極性という点において劣っていると思われるが、知性レベルでは同格なような気がする。このクラスに来ていらいそれほど会話をしたことはないが、何やら通じあうものがあるような気がする。彼女から漂ってくる雰囲気がそう語っているのだ。
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『備忘録 23』
「わ、私は・・・・・」
それは、一枝が吐き出した息だった。そう、言葉の押し出しがすべて呼吸の過程だった。
「私は?」
詩織の言葉に、誘導尋問の意図が隠されている。そのことに、一枝は、気づかなかった。
クラスメートは一枝の口、一点に同情の念を送りつけてくる。まだかまだかと、彼女の言葉を待っている。その瞬間を ―――――――。
しかし、その時はまもなくやってこようとしている。一枝は、再び口を開こうとしていた。
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『備忘録 24』
榮が瀕死の重傷を負っている前で一種の喜劇が展開していた。クラスメートは一様に、自分たちの演技に酔って、現実と虚構の区別がつかない状態に陥っていた。そのなかで、これほどまでに思考停止に陥っていようとも、呆然としていられるのは、それだけでも特別な才能を与えられている人間だと言える。
一枝の見たところ呆然とできるほどに冷静だったのは、詩織と自分たけだった。自分たち以外のクラスメートは皆、宝塚のように叫び、歌い、猿のようにウッキキキと奇声を上げているのである。
現実とはとても思えない亜空間の中で、3人は見えないところで手を繋ぎ合っていた。自分たちの気づかないところで、絆を確かめ合っていたのである。
『備忘録 25』
一枝が連れて行かれたのはトイレだった。何て事はない。いつものように見ているトイレの入り口にすぎない。しかしながら、彼女には、魔界への入り口にしか見えない。
その証拠に、ギャアギャアというこの世のものとは思えない声が、彼女の耳にだけは聞こえる。何か得体の知れないものが巣くっているにちがいない。コウモリの羽ばたく妖しげな音まで聞こえる。
「ねえ、知ってる?組の井口榮って子サイテーよね」
「2組の人殺しでしょう? あの子のせいで ―――」
コウモリ同士のじゃれ合いだろうか。蚤で打ち合うような声が聞こえる。お互いがお互いを傷付けている。細かい血飛沫が飛び交っているのだが、あまりに夢中になっているために、流血沙汰になっていることにすら気づいていない。
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『備忘録 26』
「その後、どうなったの?」
「いつの間にか、美佐恵さんと詩織さんがいなくなっていました」
「井口さんとふたりだけ残されたわけね ―――」
人工的に光を取り払われた部屋に、女性の声が響く。一枝から見るとすこしだけあさっての方向を向いている。難事件に遭遇したホームズが思惑を反芻するような仕草で、鉛筆を弄んでいる。
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『備忘録 27』
支払いを済ませ、病院のエントランスを潜る。一枝は、その過程をほとんど憶えていない。さきほどの改装で小さなコテージのように生まれ変わった受付も、患者を慰撫するために設置されたのに何の役割も果たさない観葉植物も、少女の心の中に席を与えられることはなかった。
ちなみに、その日は休日たる土曜日だったために、受付嬢もいない。費用は、直接、女医に手渡したのである。
そもそも、観葉植物よりも存在感のない彼女がいたところで、一枝の気を引くようなことはなかったであろう。
心の中に海があるとするならば、光の射さない海底に、彼女の魂は沈んでいる。そして、いまも、砂場のように柔らかい海底に、深く潜っていこうとしていく。
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『備忘録 28』
しかし、このチャンスを一枝は見失ってしまった。思わずこう言ってしまったのだ。
「大丈夫・・・・・・・」
そう言ったきり、もう榮の顔を見ることはできなくなってしまった。気が付くと、大きな交差点に達していた。
「危ない! 君、何やってるの!?」
「え?」
突然、左肩を引かれて戸惑った。何か巨大な力に絡め取られたかように思えたが、じっさいは、目の前に存在するもっと危険で凶悪なエネルギーから護ってくれたのである。続きはクリック




